映画「MOONAGE DAYDREAM」
映画「MOONAGE DAYDREAM」を観てきた
David Bowieのドキュメントということで、彼の人生を振り返るものかなぁ、と
しかし観終わった阿智の感覚は不思議なものだった
おそらく、彼のことを知らずに、彼を知りたいと思って映画館に足を運んだ人(そんな人がいるかどうか疑問だが)がいれば戸惑ったことだろう
「ボヘミアン・ラプソディ」でのフレディや「ロケットマン」のエルトン・ジョンなら映画によって人生・半生を知ることができただろう
しかし、この映画は事前に彼のアウトラインを知らなければ困惑すると思う
そう、この映画中に何度も取り上げられる「スペースボーイ」のキーフレーズは「カオス=混沌」だ
基本的に時代順に話は進むが、使われる曲や映像は時代関係なしに行き来する
ボウイ様の人生をなぞる物語…ではない
ボウイ様のメッセージを伝える物語…でもない
ボウイ教の信者にただただ与える福音…でもない
そこにあるのはボウイ様の残した言葉(あとはインタビュアーの言葉だけ)
そそいて作品の中で紡がれた言葉
映像は古いものも新しいものも「サイケデリック」にコラージュされていく
おそらく、観たそれぞれの人が「私の中のボウイ様」と出会うための材料としての映画…なのだろう
なので私個人の出会いとリンクさせると…
まずは「Space Oddity」が取り上げられる
もちろん初期の代表作だ
同時にここでつづられた「トム少佐」という存在の扱われ方がボウイの長い音楽人生でキーワードになる
これはのちのトム少佐の行方を知る私としては、「インナースペース」の叫びに聞こえる
「 Ziggy Stardust」期の映像は、このアルバムが最高傑作だと思う私には最高のプレゼントとなる
虚構のヒーローでありながら、インタビューでは”素”の姿も見せる
スターマンと人間との混沌
「ベルリンb三部作」の時代は、私が彼を知ったきっかけの「HEROS」時期の姿で、日本びいきの様子と相まって私自身の青春時代にトリップさせてくれる
若き日のエイドリアン・ブリューの姿はファンにはボーナストラックのようなものだ
そして80年代、ビッグヒット連発の時代
彼自身それを肯定しようとしているが、常に時代を追い越している彼には「時代の中心」のいることに違和感がある
言葉や表情の裏にそれが感じられる
それに反発した「ティン・マシーン」時代はスルーされて(苦笑)再び時代を追い越す
残念ながら、その当時は私は彼についていけなかった
今になってその時代の音を聞いてはまりだしたくらいだ
虚構の中で「死にたい」と言っていた彼が、「生きたい」というメッセージを残しているのには気づかなかった
映画のつくりとしては、コラージュ的な映像のつくり方が彼をうまく表現している
そして特筆すべきはそのBGMの使い方
彼の歌を配しているのは当然だが、それ以外の部分のBGMには彼の曲の「サウンドトラック」を使用している
この「サウンドトラック」とは、完成された曲から歌や一部の楽器を抜いて、特定の楽器の音だけを流すというもの
そこから徐々にほかの楽器が加わり、彼の歌が加わったところでライブ映像になる…というものがあちこちにあった
「このフレーズどっかで聞いたぞ」とマニアに匂わせ、曲になって「やっぱりこの曲のフレーズか」とうならせる「一見さんお断り」の仕様だ
この映画。おそらくヒットはしないだろう
でも、ボウイ様を崇拝するものだけが楽しめばよい
ボウイ様を知りたければ、その背景なぞ関係なしに、残された作品をただ聞いていればよい
傑作ぞろいなのだから
DAVID BOWIEの記事
Recent Comments