プログレの深い森 その5 Pink Floydの場合-2
アルバム「狂気」は28年以上もTOP200のチャートに載りつづけると言うギネス記録にもなるほどの売れ行きを示した。
そんな中、「炎~あなたがここにいてほしい」が作られる。
前作のヒットによる期待もあり、またジャケットもビニールで包装されて空けないと中のジャケットが見えなという革新的なお遊びもあり、ファンはよりプログレッシブな音を期待していたと思う。
しかし、SEやSF的な曲があるものの、プログレッシブロックと言うよりはブルース感の強いアルバムになっている。
詩の内容はよりインナースペースに向かっており、名曲「Wish You Were Here」は、盟友シド・バレットに贈られた…というか、狂気の向こう側に行ってしまったシドに対するレクイエムのようなもの。
名演奏と言ういう意味では「狂気」よりこちらのアルバムのほうがわかりやすいロックで軍配が上がるが、やはり比べてしまうとこれはプログレではない。
さらに「アニマルズ」が発売されるが、こちらは詩の世界に重要度があり、演奏と言う点ではロック色が強くなっている。
つまり、さらにプログレから離れてしまっているのだ。
この2枚のアルバムは、詩やコンセプトと言う部分ではロジャー色が強いのだが、演奏はデイブ色が強く、ギターアルバムといっても良いくらいギターが主役だ。
そしてその次に来るのが問題作「ザ・ウォール」
こいつもファンからは賛否両論ですが、とにかく”売れた”
LP2枚組みの「コンセプト・アルバム」
その大仰な感覚は先進的とも言えるかもしれないけど、やはりプログレって感じじゃなかった。
とういか、この時代は「プログレ=オールドウェイブ」という、先進なんだか後退なんだかわからんカテゴリになってたし。
ただ、この「ザ・ウォール」というのは、単なる音楽アルバムの枠を超えている。
まずは、世界で数回しか行われなかったコンサートは、演奏中に客席とステージの間に「壁」を築いていくというパオフォーマンス。
なぜなら、この「壁」と言うアルバムは元々、コンサート中に客席との何らかの壁(隔たり)を感じたロジャーが表現したかったコンセプトを基に作られたアルバムだから。
それを忠実にビジュアル化したコンサートだった。
当時は写真でその様子を見、いつか見てみたいと思ったもんだが…実現は当然しなかった。
次にこのアルバムをもとに映画として映像化された。
この時点で「ザ・ウォール」というのは単なるアルバムではなく、様々なメディアを横断する作品、いわゆるミクスチャーとなっていく。
これはある意味プログレッシブ(革新的)だけれども、音楽としてのプログレとはちょっと違う。
その後、ベルリンの壁が崩壊すると言う予期せぬ出来事が起こった後、その時点ではもうPink Floydから脱退していたロジャーが、様々なアーチストをゲストにこの「ザ・ウォール」コンサートを再現している。
こうして、「ザ・ウォール」と言う作品は、オリジナルCD、ライブパフォーマンス(近年この様子がライブCDとして発売された)、映画、ベルリンのコンサート(DVD・CD共にあり)と様々な形となり、単なるプログレというカテゴリーには当てはまらない、ROCKの歴史的なアイコンとして認識されることになる。
で、私としては、プログレと言うことでは語れないが、スピリッツとしてのROCKアルバムとして、今でも重要な作品としてお勧めする。
4人のPink Floyd…といいたいところだが、実は「ザ・ウォール」の途中でキーボードのリックがメンバーから外される。
ただし、サポートメンバーとしてクレジットはされている。
この辺からメンバー構成がややこしい。
次作「ファイナル・カット」に関しては、限りなくロジャーのソロに近いものになっている。
音作りも、これまでのアルバムに比べ非常に地味な仕上がりになっている。
そして、この作品でPink Floydは一旦幕を引いた。
数年後、デイブとニックによってPink Floyd名義の「鬱」が発表された。
リックもサポートとしてクレジットされ、3人のメンバーがそろったので「こちらが本家」と主張するが、すでにPink Floydを終わらせソロになっていたロジャーは名称の使用を認めなかった。
私としても、終盤のイニシアチブから、ロジャーのいないPink Floydは認めたくない。
したがって、YESのときと同様、これはPink Floydという名前の別バンドだと思って欲しい。
でも、来日した際、コンサートを見に行ってしまった。
このユニットは、その後もう一枚「対」というアルバムと、2枚のライブ盤を残した。
一方、ロジャーの方もソロアルバムを出し続け、結構良い作品を残しているが商業的には成功していない。
「死滅遊戯」なんかはかなりクオリティが高いコンセプトアルバムだと思う。
こちらも来日したときにコンサートを見に行った。
デイブ中心の「Pink Floyd」コンサートは、そのステージングに派手にお金をかけ、豚は飛ぶは映像は派手だは、しまいにミラーボールが舞い上がり大きく割れて光の洪水をもたらすはで、とてつもなくエンターテイメントだった。
また、演奏面でもロジャーの代わりは十分埋められ、音としては十分なものだった。
一方、ロジャーのコンサートはビジュアル的には負けている。
しかし、その詩の世界を牛耳っていたロジャーには説得力がある。
単なるヒットパレードのデイブ・フロイドに対して、ソロも含めた構成は無駄がない。
すべての詩がわかっているわけではないが、コンセプトが感じられる。
演奏も、サポートミュージシャンがそつなくこなしている。
こう書くと、4人が揃わなくても良いんじゃないかという…
しかし、この4人が揃ってパフォーマンスしている「ライブ・アット・ポンペイ」の映像などを見ていると、このかけがえのない4人が奏でる世界は、まぐれもないプログレなのだ。
近年、たまたま4人が揃ってパフォーマンスする機会があったが、単なるヒットパレードでしかなかった。
それでも喜ぶ人が多いから否定はしない。
しかし、それはプログレバンドではない。
Pink Floydは確かにプログレバンドだし、その最重要なアイコンである。
その片鱗は、多少聞き辛いかもしれないが「原子心母」「おせっかい」「狂気」で味わって欲しい。
あと、「ライブ・アット・ポンペイ」の神秘的な映像とマッチした演奏は、プログレとしてのひとつの完成形(視覚・聴覚あわせての表現)だと思う。
そして他にはない味のロックバンドとして「炎」「ザ・ウォール」をぜひ聞いて欲しい。
プログレの中の一バンドじゃなく、追従するもののいないオンリーワンの存在として。
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