Pink Floyd「Atom Heart Mother」
アルバムタイトルは「Atom Heart Mother」邦題はそのまま訳して「原子心母」私のように70年代後半にロックに目覚めたものとしてはすでに「原子心母」として認知されていたから何も思わなかったが、発売当初にこのタイトルを聞いた人たちはどんな音楽だと思ったんだろう…しかもこのジャケットで…
でも今となってはこのアルバムは「原子心母」以外の何者でもないからすごい。
A面はタイトル曲の「Atom Heart Mother」
フェードインでオーケストラのホーンセクションが音を探して試すように鳴らす。やがてひとつのテーマにまとまったところでドラム・ベース・ギター・キーボードが加わり、ロックのリズムに乗り出す。馬のいななき、大砲の音、バイクの轟音…SEが加わった後に再びメインテーマが奏でられる。一旦音が収まった後、ベースとキーボードのソロにストリングスが加わり、ドラムが加わった後スライドギターのソロへと移る…
このように、ロックのインストナンバーにオーケストラが見事に融合している。グラムロック・サイケデリックロックというカテゴリでは収まりきれずにプログレッシブ・ロックが誕生した瞬間だ。カテゴリとして定着するのはもっと後だろうが、このアルバムと同時期に発表されたKing Crimson「In The Court Of Crimson King」の2枚が間違いなく先駆者だ。YES・GENESIS・EL&Pという後にプログレで括られるバンドたちの代表作はもっと後に出てきている。
このアルバムの成功により、ロックとオーケストラの融合だとか、クラシックのような主題を中心に展開する大作主義などが生まれたんではないだろうか。
(King Crimsonのプログレっぽさは即興性になると思う)
曲の話に戻るが、オーケストラの他にコーラス隊の部分もこの曲を名作にしている要素だ。コーラスは歌ではなく、またスキャットでもなく、あえて言うなら原始的な叫び・唸りといえば良いだろうか。これが曲にマッチしているのだからすごい。その後サイケデリックなSEのコラージュを経て、またオーケストラの混沌とした音の後にメインテーマに戻る。バンド・オーケストラ・コーラスの全てがひとつにまとまって大団円を迎える。
何度聞いても飽きない、あっという間の23分半…アナログの片面メいっぱいの至福の時間。
Bサイドに移って、まずはアコースティックな「If」この曲はまだPink Floydを熱を入れて聞くより前にFM番組からエアチェックして気に入っていた曲。たしか「クロスオーバーイレブン」だったと思うが、この曲とKing Crimson「I Talk to the Wind」が続けて流れていたものを録音して何度も聞いていた、とてもきれいな曲だ。
つづいてピアノのきれいなメロディから始まる「Summer '68」これも前曲と同じようなアコースティックな静かな曲と思っていたが、中盤一転してハードなサウンドに変わる。そう、後の「The Wall」においてアルバム全体で展開される硬軟あいまった雰囲気の原点がここにある気がする。
全編アコースティックな「Fat Old Sun」を挟んで、このアルバムもうひとつの組曲「Alan's Psychedelic Breakfast」へと移る。基本的に優しい感じの曲の中に、調理の風景のSEやまるで「Penguin Cafe Orchestra」のようなサウンドが入れ代わりやってくる。タイトルの「サイケデリック」な雰囲気はまるで感じられない。
アルバムジャケットも有名だし、セールス的にも大ヒットしているが、タイトル曲「Atom Heart Mother」の雰囲気で敬遠している人も多いと思う。私自身、派手なロックが好きだった若い頃は、このアルバムの本当のよさに気づいていなかったと思う。大人になってこそ聞いて欲しいロックだ。
定番度 85% ロックの歴史的名盤として一度はご経験を
Atom Heart Mother - Pink Floyd LP/CD/MP3
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